母子生活支援施設は、昔「母子寮」と呼ばれていました。
歴史は古く、昭和22年の児童福祉法により定められ、つくられた施設です。
当時は戦争により夫や住まいを失った母子を保護するための施設でした。
片親や経済的な理由等で、困窮している母子を保護する施設だった「母子寮」ですが、女性が働ける世の中になっていくと、今度は離別により母子家庭となった女性の経済的な問題・就労の問題・児童虐待など、各家庭で抱える問題が複雑化していきました。
そういった社会情勢の変化から、平成10年の児童福祉法改正で、名称が「母子生活支援施設」に変更されています。
今回は、母子生活支援施設への入所理由で最も多いのは?ということで、母子生活支援施設への入所理由について紹介しますのでぜひご覧ください
母子生活支援施設とは?
▶ 母子生活支援施設は、困窮している母子の生活を助け自立を促す施設
母子生活支援施設は、生活に困っているお母さんと子供の生活を助けて、自分たちで生活していけるようになるまでの手助けをしてくれる施設です。
なお、名称が「母子寮」から「母子生活支援施設」に変更されたのは、目的に「入所者の自立の促進のためにその生活を支援すること」が追加されたためです。
(母子生活支援施設)
第三十八条 母子生活支援施設は、配偶者のない女子又はこれに準ずる事情にある女子及びその者の監護すべき児童を入所させて、これらの者を保護するとともに、これらの者の自立の促進のためにその生活を支援し、あわせて退所した者について相談その他の援助を行うことを目的とする施設とする。
引用元:厚生労働省
また、平成16年に児童福祉法が改正され、「退所した者について相談及びその他の援助を行うことを目的とする」という文言が付け加えられています。
これにより、自立の道が整って対処した母子も、相談等で利用できることになっています。
なお、施設数は平成28年10月時点で232箇所、定員4,779世帯のうち現員は3,330世帯の児童5,479名が暮らしています。
どんな子達が生活している?
▶ 入所している児童の年齢は、79.2%が小学生以下
少し古いデータですが、平成20年に厚生労働省が調査した資料に、母子生活支援施設で暮らしている児童の年齢の割合が載っていましたので表にしました。
年齢 施設利用者の割合 全国母子世帯の割合 6歳以下 41.3% 17.8% 小学生 37.9% 36.5% 中学生 13.4% 20.1% 中卒以上 6.9% 23.5% 厚生労働省「母子生活支援施設の現状と課題」 2ページ目をもとに作成
子どもの年齢は 6歳以下が41.3%、小学生が37.9%ですので、小学生以下が 79.2%を占めています。
幼い時期は目が離せないですから、支援のない状態で子育てしながら働くのが難しい状況がわかります。
後ほど詳しく書きますが、施設利用者の入所理由で圧倒的に多いのが「DV」です。
上記資料によりますと、施設を利用する児童のなかで虐待を受けたことがある子は全体の41.4%です。
前回の調査が18.5%とあるので、DV・家庭内暴力で逃げ込んでくる家庭がいかに増えているかがわかります。
また、身体障害・知的障害・精神障害など、障害があるお母さんの割合が22.9%と増えています。
お母さんが外国人である割合も増加傾向にあり、新規入所世帯の10.0%です。
入所するには?
▶ 住んでいる市町村の福祉事務所が窓口
基本的には、お住まいの地域(市町村)の福祉事務所に問合わせます。
またDV被害の場合は「DV相談ナビ」というナビダイヤルもありますので、電話で問い合わせるとどこの窓口に行けばいいか教えてくれます。
母子生活支援施設の入所理由、最も多いのは?
▶ 最も多いのはDV(夫からの暴力)
▶ 経済的な理由などが理由で入所する人も
▶ 施設に入所するには自治体へ
先ほど書いたように、母子生活支援施設を利用する人の理由で最も多いのはDV(夫からの暴力)です。
■新規入所世帯の入所理由
利用理由 割合(%) H16年度 H20年度 H24年度 夫などの暴力 44.9% 48.7% 55.5% 住宅事情 23.9% 22.0% 18.3% 経済事情 16.3% 10.8% 10.4% 入所前の家庭環境の不適切 7.2% 7.3% 7.8% その他 7.7% 11.2 8% 9ページ目 ■新規入所世帯の入所理由(年次推移)をもとに作成
夫からの暴力
入所理由で、最も多く半数ほどを占めているのがDVです。
夫から暴力を受けたり精神的支配を受けて自由な行動を取れなかったり、DVを受けた母子の受け皿となっています。
残念なことに、DVによる緊急入所は年々増加しています。
身の危険を感じて何も持たないまま飛び出してきた母子のために、これからの生活等いろいろ相談に乗ってくれる職員がいることも、母子支援施設の特徴です。
住宅事情
働いていない女性や非正規雇用の女性、保証人がいない女性に陥りがちなのが「家が借りられない」という問題で、全体の20%ほどを占めています。
そんな母子も一時的に生活をする場を提供するのが、母子生活支援施設です。
母子支援施設は居室が独立しているのでプライバシーも守られますし、長期休みの対策など子どもの生活への支援も行っているので、お母さんは安心して職場に通うことができます。
経済的な理由
経済的な理由は、全体の10%強を占めています。
小さな子供を抱えながら支援なく一人で働くのは難しいのが現状です。
資格や経験があっても正社員の新規採用は難しく、パートやアルバイトでなんとか暮らしている母子も多くいます。
パートやアルバイトでも、子供が熱を出して早退しなければいけないので思うように稼げなかったりします。
③ 低所得世帯が多い
母親が「就労している」割合は 70.3%と非常に高い就業率になっていますが、その80.0%とほとんどが非正規雇用で、不安定雇用、また社会保険等の非加入など考えれば、失業手当を受給できないなど、非常に脆弱な就業環境にあります。
その結果、母子生活支援施設利用者の正規雇用者の半数が収入月額「 10~ 15 万未満」、非正規雇用者の半数が「5~10 万未満」となっています。平成 18 年度国民生活基礎調査では、一般母子世帯1世帯あたりの平均所得は 211 万 9 千円(月額17 万 7 千円)ですから、母子生活支援施設利用者は一般母子世帯に比べても大きく下回っています。引用元:厚生労働省
このように、経済的な理由でやむなく入所する人も多くいるわけですが、生活できないほど経済的に困窮した場合、自立を支援してくれるのも母子生活支援施設です。
一部の施設では、保育室があったり、夜間の残業などがあったときに子どもの世話をしてくれるトワイライトステイ事業を行っている施設もあります。
入所前の家庭環境の不適切
「入所前の家庭環境の不適切」は全体の7%強です。
「入所前の家庭環境の不適切」とは、例えば夫が借金を作って逃げてしまい、家に毎日借金の取立てが来るようになってしまったというケースです。
こういった事情で今の場所に住めなくなってしまった母子に、一時的な避難場所として母子生活支援施設を利用することができます。
その他
ほかにも少数ですが下記のような理由で入所する方もいます。
- 児童虐待
- 母親の心身の不安定
- 職業上の理由
また、このほかにも精神・身体障害手帳所有者の方や10代の母、児童の不登校、子育て不安などがあり、多種多様な入所理由があります。
さいごに
在所期間は、在所2年未満が半数以上(52.4%)です。
つまり、半数以上が2年以内に自立して普通の生活が送れるようになる、ということです。
母子生活支援施設には、自立に向けて様々なサポートが用意されています。
困り事があったらまずは福祉事務所に相談をしてみてくださいね。